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お大師様のことば お大師様のことば

お大師様のことば(三十八)

大正大学名誉教授
文学博士・東京成就院長老
福田 亮成



 昨年の三・一一以来、日本人の生きるその仕方に変化がでてきているといわれております。小学校の先生を仕事としている友人が、確かに若いお母さんに変化がみられると云っております。

 便利さにかまけて、いつのまにか日本列島に五十余基の原発ができていたなんて、まったくの迂闊うかつでありました。便利でクリーンという名のもとに電気が生活の隅々にまでおよび、家にはおびただしい家電製品があふれ、高級感ただようオール電化のマンションが乱立しております。生活の便利さの追求が処理不可能なものに依存しているなんて、まったく愚かなことであったと云わざるをえません。

 東北大震災や原発事故の社会に対して、仏教界から“少欲知足”という言葉が投げ掛けられておりますが、それは便利さになれきっている現代人に向かっての戒めの言葉としてでありましょう。

 たしか、京都の苔寺こけでらの縁側の近くの庭にある手水鉢に、口を中心として上に「五」、右に「隹」、下に「・」、左に「矢」の“吾、唯だ足るを知る”とよめるつくばいがあったように記憶しています。それも人々への戒めの言葉でありましょう。お大師様が考えます心品転界しんぽんてんしょうの第二住心に、ここに掲げました言葉がありますが、それに第十住心の階位を定めておりますことは、その少欲知足ということを出発として、宗教的な世界がより深化してゆくための足がかりとすることでありましょう。

 私達が自然災害や原発事故、そして社会の激変がもたらす不幸に対処する方法は、かろうじて心と身体とに少しの余裕を持つことでしょう。その少しの余裕の中に深い宗教的な世界が展開していくものではないでしょうか。



六大新報 第四二七五号 掲載



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