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お大師様のことば お大師様のことば

お大師様のことば(二十九)

大正大学名誉教授
文学博士・東京成就院長老
福田 亮成



 このコトバは誰でもが実感できるものです。“世の常の理・人の定まれる則”とは、それに反論できるものではありませんし、私には関係ありません、と言い逃れることなど、まったくできないことであります。しかし、日常生活の種々くさぐさに取り紛れ、いつのまにか遠いこと、他人ごとのようになってしまっているのが現実でしょう。

 このたびの東日本大震災、大津波、あるいは原発事故は、人間の日々の営みを瞬時に粉砕してしまいました。世の常の理、人の定まれる則、なりとさとすというよりは、激烈な自然のパワーによって、あるいは制御不可能な放射能の恐怖によって、人の死という事実が地球規模の形となってあらわれでたということでありましょう。

 今、私達は人間の死ということを深刻な現実として突き付けられております。私達は、その現実をどのように乗り越えていったらよいのでしょう。人間は、小人も大人も老人も共に死に向っての日々を生きている、ということができましょうが、いやそうではなく、死を背中に、この一日をどのように生きていくべきか、と問うべきではないでしょうか。

 お大師さまは天長九年八月廿二日、高野山万燈会の願文におきまして“虚空こくう尽き、衆生しゅじょう尽き、涅槃ねはん尽きなば、我が願いも尽きん”という大誓願を高くかかげられました。実に大師五十九歳の八月のことであります。このお大師さまの大誓願は、今を生きる私達にも平等にそそがれているものでありましょう。

 私達、真言宗末徒は、そのお大師さまのあたたかなみ心を、どのように受けとっていくべきか、が最も大切なことであるはずです。

六大新報 第四二五二号 掲載



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