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お大師様のことば お大師様のことば

お大師様のことば(二十)

大正大学名誉教授
文学博士・東京成就院住職
福田 亮成

 仏教がいう苦とは、普通、生、老、病、死の四苦と、愛別離苦、怨憎会苦、求不得苦、五陰盛苦の四苦をあわせたものであります。

 この文では、生の苦、死の苦、老の憂、病の痛、貧の苦、財の苦の六苦をあげて、他は略しておりますが、八苦ともいっておりますから、それらが前提となっているにちがいありません。文では四苦の外に貧の苦、財の苦といっておりますが、実際には求不得苦ぐふとっくを開いたものにちがいありません。

 そして、この文の前に、「十二因縁は輪転りんてんして絶えず、五蘊ごうん八苦は幻現げんげんして休まず」とありますから、この四苦、八苦の全体を意識されたものでありましょう。

 お大師さまのご生涯を憶いますと、種々なる困難にぶつかり悩んでおられます。(一)家が傾むき二人の兄がってしまったこと。(二)沙門への転進について、道にもとるもので、忠孝にそむくものであると批判されたこと。(三)真如仏性が内からもよおし悟りを求めて、どのような路に進むべきか悩んだこと。(四)入唐にあたり海上に二月有余日をただよったこと。(五)師僧恵果阿闍梨の遷化にあったこと。(六)帰国直後の政治的な混乱があったこと。(七)弟子智泉の入滅にあったこと。(八)比叡山の最澄さまとの問いにおきまして、弟子や借覧資料をめぐっての不和のこと。(九)金剛峯寺創建の困難であったこと等、他にも数え上げることができます。

 しかし、このようなご生涯にわたります困難を前にして、あるいは苦しみ、悩まれたことがあったにちがいありませんが、お大師さまの歩かれた路は、堂々どうどうとしていて、まったく遅滞ちたいすることがありませんでした。

六大新報 第四二二九号 掲載



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