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お大師様のことば(十七)
大正大学名誉教授
文学博士・東京成就院住職
福田 亮成
この文は、「山中に何の楽かある」という文の一句であります。お大師さまは、もともとその心底に、自然児的な心情をたっぷりとたたえもたれていた方でありました。
掲げました文句は、堂内に端座して瞑想のなかで
私にも山歩きの趣味があります。夏の一日は、低い山を一人で歩いておりますと、大きな自然の内に包まれて、なんとも
“春の華、秋の菊、笑って我に向えり”とは、そうだ、そうだ、まったくそうだと共感するのみであります。生きてきて、そしてお大師さまの心にそうことができたと、ただ感謝するのみであります。
私達は、お大師さまを、弘法大師として崇めるのが常ですが、天長元年(八二四)四月六日、五十一歳になられたお大師さまが、小僧都に任ずるという天皇の勅書が下りましたが、それを辞するための表が草されました。「空海、二十歳より五十歳におよぶまで、山林を住家とし、瞑想を修すること余念がありませんでした。世の中のことがうとく、それにたずさわることが苦痛であります」と述べております。沙門、山林修行者としてのお大師さまを思うものです。
六大新報 第四二二一号 掲載