お大師様のことば(五十六)
大正大学名誉教授・種智院大学客員教授
智山専修学院長・東京成就院長老
福田 亮成
私は無常というものの迅速さを、これほどリアルに、そして端的に述べた言葉を知りません。
私が仏教を勉強しだして大分たち、仏教が少しわかったような気になっていたある時、私にはまったく信心という世界が欠如していることを思い知らされることがありました。
ある講演会に参加した折、講師のお一人が開口一番、ここにいる人々は、すべて今晩十二時に死ぬ、そんな気持ちで聞いてもらいたい、と。この言葉は強く心に響いてきて、講演を聴聞するどころではなかったという経験があります。この言葉は今でも私の耳に鳴り響いており消えることはありません。今晩十二時ということは、文字通り今晩なのか、三十年後の今晩十二時なのか、どのような人々にも今晩十二時はやって参ります。私の仏教信心の原点は実にここにあります。
後になって、今晩十二時のことは、解脱上人のお言葉だということがわかりました。『
解脱上人云く、「一年三百六十五日は、みな無常にしたがふべき也。しかれば、日夜十二刻は、しかしながら、
六大新報 第四三二一号 掲載